
新人にAIをどう使わせるか、決めるのは社長。最初に決める3つのルール
調査では新入社員の8割超が入社時点で生成AIの利用経験を持つ一方、新人自身が心配しているのは「情報の正確性」と「思考力・学習能力の低下」。禁止でも放任でもなく、使ってよい業務、確認の仕方、学ばせ方の3つを社長が決めておく方法を、調査とIPAの手引書をもとに整理します。
今号のテーマ、新入社員の8割超が、AIを使った経験を持って入社しています、新人自身が心配しているのは「正確さ」と「考える力」です、会社の側にも「教え方がない」という課題があります、ルール1 使ってよい業務を、最初に渡す、ルール2 確認の仕方を、仕事として教える、ルール3 学ばせ方を決める。まず自分で考えてから使う、まとめ 禁止でも放任でもなく、渡し方を決める
今号のテーマ
きのうは、会社として使ってよいAI、確認する人、責任者と連絡先を、社長が先に決めておくことを見ました。 今日はその決めごとを、新しく入った人にどう渡すかを考えます。
新人は、AIを使ったことがない状態で入ってくるとは限りません。調査では、使った経験を持って入ってくる人が多数です。 そのときに会社が「禁止」とも「自由に」とも決めていないと、使い方は一人ひとりの判断に任されます。
今日は、新人のAI利用を、禁止でも放任でもなく、社長が決める3つのルールとして整理します。
1. 新入社員の8割超が、AIを使った経験を持って入社しています
産業能率大学総合研究所の「2026年度 新入社員の会社生活意識調査 生成AI活用意識編」(2026年8月6日公開)では、入社時点で何らかの場面で生成AIを使った経験がある新入社員は83.2%でした。調査は2026年度入社の新入社員500人を対象に、2026年4月3日〜9日にインターネットで行われています。
同じ調査で、生成AIが出力する情報をどの程度信頼できるかを尋ねたところ、最も多かったのは「41〜60%程度」で33.0%でした。「100%」信頼できるとした人は3.6%です。
NCBリサーチ&コンサルティングの「2026年度新入社員の意識調査」(2026年5月29日公表)でも、生成AIを仕事で「積極的に活用したい」「必要に応じて活用したい」と答えた新入社員は91.3%でした。対象は同社が福岡市、北九州市などで開いた新入社員向けセミナー・研修の参加者で、回答は934名、調査期間は2026年3月27日〜4月24日です。同社の2024年調査の同じ趣旨の設問では48.8%だったとしています。
ここがポイント「新人にAIを使わせるかどうか」を考える前に、新人の多くはもう使っています。会社が決めるのは、許すかどうかよりも、仕事のどこでどう使うかです。
2. 新人自身が心配しているのは「正確さ」と「考える力」です
NCBリサーチ&コンサルティングの調査では、仕事で生成AIを使う場合の不安を2つまで選んでもらっています(2026年度新入社員の意識調査)。
- 情報の正確性 50.1%
- 思考力・学習能力の低下 41.8%
- 情報漏えいなどセキュリティ 40.9%
AIの答えが正しいか、そしてAIに頼ることで自分が育たないのではないか。新人自身が、この2つを気にしていることがわかります。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)のサイトで公開されている「生成AIおよびAIエージェントを安全に活用するための手引書」(2026年7月31日 第1版)は、人による確認を対策の中心に置いたうえで、残るリスクとして「AI利用者の専門知識が不足している場合、AIの誤りを見抜けない」ことを挙げています(付録「発生被害ごとの対策の進め方」発生被害E)。
仕事の知識がまだ少ない新人は、まさにこの立場にいます。AIに慣れていることと、仕事の中身で誤りに気づけることは別の力です。
ここがポイント新人の「正確さが心配」「考える力が落ちそう」という不安は、もっともな不安です。ルールは、この2つに答える形で作ると、新人にも納得してもらいやすくなります。
3. 会社の側にも「教え方がない」という課題があります
日本商工会議所の「LOBO調査(2026年8月調査結果)」では、生成AI活用にあたっての課題(複数回答)として、「生成AIの活用に向けた社員教育、社内ルールの制定」が40.5%で2番目に多い回答でした。最も多かったのは「活用できる業務の洗い出し、活用方法の検討」で53.3%です。
だからといって、禁止から入るのはおすすめしません。IPAの手引書は、許可なく使われるAI(シャドーAI)は多くの場合、悪意ではなく業務上のニーズから生じるため、禁止を先行させるだけでは申告されない利用が増え、実態がつかみにくくなるおそれがあるとしています(手引書 第2章 2.3.2)。
新人に「使うな」とだけ伝えても、それで使わなくなるとは限りません。会社が知らないところで使われるより、会社が決めた形で使ってもらうほうが、社長にとっても見通しがききます。
ここがポイントここから先の3つのルールは、新人のための特別な規則ではありません。10月20日号で整理した「使ってよいAI」「入れてはいけない情報」を土台に、新人向けに具体的にしたものです。
4. ルール1 使ってよい業務を、最初に渡す
1つ目は、どの仕事でAIを使ってよいかを、業務の名前で示すことです。
「AIは使ってよい」だけでは、新人はどこまで使ってよいか判断できません。たとえば、次のように分けて渡します。
- 使ってよい:社内向けメールの下書き、議事録の要約、調べものの取りかかり、文章の言い回しの確認
- 先輩や上司に相談してから:お客様や取引先に出す文章、見積もりや金額が入る資料
- 使わない:会社が認めていないAIの利用、顧客情報や社外秘の情報の入力
IPAの手引書は、会社が認めたAIの一覧と、それ以外のサービスの利用禁止をガイドラインに書き、従業員に周知することを挙げています。あわせて、新しいAIを使いたいときの審査の流れを用意し、現場の要望を吸い上げる仕組みを設けることが重要だとしています(手引書 第2章 2.3.2)。
ここがポイント一覧は、新人の入社初日に、社内ルールと一緒に渡せる紙1枚で足ります。業務の名前で書くと、新人は迷わず使い始められます。
5. ルール2 確認の仕方を、仕事として教える
2つ目は、AIの答えをどう確かめるかを、業務の手順として教えることです。
IPAの手引書は、「AIの出力は下書きであり、最終判断は人間が行う」という原則を業務の手順に組み込むことを、基本の対策として挙げています。あわせて、確認の対象を業務のリスクに応じて絞り込み、すべての出力に同じレベルの確認を求めないことで実効性が高まるとしています(手引書 付録 発生被害E)。
新人向けには、たとえば次の形にします。
- AIで作ったものは、すべて「下書き」として扱う
- 提出する前に、数字、日付、固有名詞、相手先の名前を、元の資料と照らし合わせる
- AIを使ったかどうかと、どこを確かめたかを、提出のときに一言添える
3つ目の「一言添える」は、新人を疑うためではありません。上司がどこを重点的に見ればよいかがわかり、確認の手間を減らしやすくなります。
ここがポイント新人の確認だけで完結させず、ルール1の「相談してから」の業務は、先輩や上司が最後に見る。仕事の知識が足りない分を、人の確認で補う形です。
6. ルール3 学ばせ方を決める。まず自分で考えてから使う
3つ目は、AIを使いながらも、新人が仕事を覚えられるようにすることです。
新人自身が「思考力・学習能力の低下」を心配していることは、2で見たとおりです。そこで、AIを使う順番を決めておきます。
- まず自分で、目的と、伝えたいことを2〜3行で書く
- そのうえでAIに下書きや案を出してもらう
- 最後に、自分の言葉で直して、なぜそう直したかを説明できるようにする
教える側の決めごとも必要です。IPAの手引書は、AIを使うすべての従業員に、ガイドラインの内容や、ハルシネーション(もっともらしい誤り)を前提にした出力確認の重要性などを、定期的に教えることを挙げています。AIの技術や脅威は変化が速く、一度の研修では終わらせないことが重要だとしています。禁止事項の押し付けだけでなく、会社が認めたAIを安心して使えるという前向きなメッセージを伝えることで、ルールが守られやすくなるとも書かれています(手引書 第2章 2.4.4)。
【架空の例】社員20名の会社で、新人2名を迎えたとします。初日に「使ってよい業務」の紙1枚を渡し、最初の1か月は、AIで作った下書きに「AI使用・数字は請求データで確認済み」とメモを付けて先輩に出す。月に1回、15分だけ、使ってみてよかった頼み方と、AIが間違えていた例を新人から共有してもらう。これだけでも、使い方が個人任せになるのを避けやすくなります。実在の会社の例ではありません。
ここがポイント新人がAIで見つけた便利な使い方は、会社の財産にもなります。教えるだけでなく、新人から聞く場を作ると、ルールの見直しにもつながります。
まとめ 禁止でも放任でもなく、渡し方を決める
産業能率大学総合研究所の調査では、新入社員の83.2%が入社時点で生成AIを使った経験を持っていました(調査ページ)。一方で、新人自身が仕事での不安として挙げた上位2つは、「情報の正確性」と「思考力・学習能力の低下」でした(NCBリサーチ&コンサルティングの調査)。
社長が最初に決めておくのは、次の3つです。
- 使ってよい業務を、業務の名前で渡す
- 確認の仕方を、下書きと照合の手順として教える
- まず自分で考えてから使う、という学ばせ方を決める
決めごとがあれば、新人のAI利用は本人の成長と会社の仕事の両方に生かせます。最後の判断と確認は人が持つ、という前提は変えずに進めましょう。
新人を迎える前に、自社のルールをどこまで決めておくか。一緒に考えます。
Next Stepこの号を読んだあとに
自社でAIをどう使うか、一緒に考えませんか。
記事で気になった事例を、御社の業務にどう落とし込むか。個別の作戦会議と、編集者による日々の発信をご用意しています。
フォームから申し込めます。現状の業務を伺い、AIで何から始めるかを一緒に整理します(オンライン・20分、大阪市内は対面可)。
AI導入の作戦会議を申し込む(無料)小畑タカユキをフォローする
AIを前提にした仕事の進め方を、毎日発信しています。